禁忌は解禁された
「一颯」
「え?」

「今日、仕事ついてくる?」
「え?」
「大丈夫。一颯は俺が守るから」

「颯天…」

「定例会なら、いいんじゃね?」


神龍組・本事務所━━━━━━━━

井田の運転する車に、助手席に銀二。
後部座席に颯天と一颯が乗っていた。

事務所の正面玄関前、ズラリと組員達が並んでいて銀二が降りると………

「ご苦労様でございますっ!!」
と組員達が、一斉に挨拶してきた。

そして井田が、後部座席を開ける。

颯天が出ると、また一層大きな声で挨拶してきた。

「一颯、おいで?」
颯天が手を差し出し、その手を握って出る一颯。

まさか、一颯がいると思わない組員達。
一瞬目を見開いて、でもすぐに頭を下げ挨拶してきた。

「みんな、ご苦労様」
一颯は、無表情で挨拶するのだった。


「若」
組員が、一颯の後ろ姿を見ながら耳打ちしてくる。

「ん?」
「どうして、姫が?」
「ちょっとな。気を遣わせるが、頼む」
「……わかりました」
「ん?なんか、あるのか?」
「奴等がうろついてます。姫に危険が及ばないかと……」

「大丈夫だ。俺が守るから」


「━━━━━以上で、報告は終わりです」

「組長、何かありませんか?」
「ううん。銀二がいいなら、いい」
一颯の腰を抱き、ソファに座っていた颯天。
煙草を咥えた。
すかさず、銀二が火をつけた。

「颯天」
「ん?」
「火くらい自分でつけたら?」
「は?」
「なんで、いつも銀くんがつけるの?」
「銀二がつけるから」
「何それ…」

「姫、それも私の仕事ですので……」

「違うよ。銀くんは、若頭さんだよ。
そんなこと、しなくていいんだよ?」

「一颯」
「何?」
「ここに連れてきたのは一颯にここの雰囲気を分からせたかったからで、口出すならもう二度と連れてこないよ」
「は?」

「悪いけど、一颯には無理だよ。
俺達の世界を知ることなんて」

「え?」
「道加のこと、聞いただけで泣いてた。
そんな“程度”で、動揺するなら、無理!」

「そんな程度?」
「うん」
「道加さんは、颯天の元カノさんだよ!」
「そうだな」
「そんな人が、死んだんだよ!悲しくないの?」
「一颯を傷つけたから、当たり前だ!」

「そんなこと…一度は、好きになった人でしょ…?」

「言ったよな?俺は、一颯がいれば何もいらないって」

「…………やっぱり、道加さんの言う通りだ」

一颯の呟きが合図かのように、空が曇り出した。
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