臆病な私に,君の溺愛は甘過ぎる。
「そうだね」



多分,用もなくなり,ここらで切り上げたいのだろう。

兄の様子を窺うその姿からは,『帰ろうよ』と声が聞こえそうなほどだ。



「じゃあ,帰るね。ありがとう」




相変わらずギャップのある喋り方,性格。

彼は本当に,表情に出にくい。

よく笑ったあのときは,可愛くて分かりやすかったのに…

本当は,私を見つけた今,なにがしたかったんだろう。



『俺は今も好きだ』



頭をふる。

考えたって分かるわけがない。



「澪,見送ってくる」

「俺も…」

「大丈夫。私のお客さんだから」



私が微笑むと,澪は椅子に座り直す。

影のかかった澪の表情は見えない。

本当なら,澪はここにいて欲しくない人ナンバーワンなのだ。
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