臆病な私に,君の溺愛は甘過ぎる。
「だけど,それも今日までだ」



力強い宣言。

私は「え」と顔をあげた。

あの日と変わらない,決意の瞳。

私が1度,裏切ったもの。



「俺は,あの日…」



私にはあの日の話を聞く度胸など,有りはしない。

自然と体が強ばった。



「澪に,もう一度,告白しようと思ってたんだ。…何となく,気持ちが離れていく感覚がしてて,何か悩んでるみたいだったから」



あぁ,なんて素敵な人。

私が裏切ったものは,決して小さくない。

あの日の優しさは,もう戻らない。



『話があるんだ』

あの日の震えた声は,菖の精一杯の勇気。



菖と同じ好きではないと気づいた私を言及するものでも,(他の人)が好きだった私を責める物でもなかった。

逃げたのは,やっぱり私。

暴かれたくないと,一方的に別れを告げて,背を向けた。
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