臆病な私に,君の溺愛は甘過ぎる。
「そんな顔しないでよ澪。俺もあの時澪に言われるまま別れて,帰ったからいけなかった」

「そんな」

「でも俺はまだ諦めてない。今度はただ帰ったりしない。もう一度だけ言う。俺は,いまも澪が好きだ」



そう,言われても。

私はもう……



「頑張って振り向かせる,から。ちゃんと俺を見て。昔みたいに」



ハッとして顔をあげた先にあるのは,やっぱりあの瞳。

何も変わらなくて,私が壊さなかったことに安心する瞳。

だけどやっぱり,だからこそ実感する。

私は,もう変わったのだ。

私が彼を置き去りにした。

ストンと落ち着いた事実によって,私は罪悪感にとらわれる。

何も言えないでいると,菖はじゃあねと行ってしまう。

呼び止めるための言葉を,私は何一つ持っていなかった。
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