臆病な私に,君の溺愛は甘過ぎる。
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ブラックチョコレート。

それは,あの頃を象徴する味だと言って良い。

私達は周りが羨むほど仲が良くて,どこへでも,どんなに些細な理由でも,一緒に出掛けた。

キスも,何もなかった。

手を繋ぐことに照れて,たまにぎゅっと繋ぐ。

そんな純粋な付き合い。

けれど,平たく言えば,私達は。

あの頃を知る誰に聞いても,順調だった。

そんな2人で仲良く食べたブラックチョコレートを,私はとても久しぶりにコンビニで買って1人で食べ歩く。

なんの感情も沸いてこなかった。



「みおちゃん? なーにしてんの」



わっと横から顔を出したのは,礼夢くん。



「……礼夢くんこそ」



私は多分こんなにも無機質な声を,人生に置いて出したことがない。

表情筋が仕事しないながらに,私は内心とても驚いた。
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