臆病な私に,君の溺愛は甘過ぎる。
菖が柔らかく目を細める。

私の知ってる菖が。

菖くんって,最初の頃はそう呼んでた。

私がお別れするのは,百鬼 菖じゃない。

あの頃の菖だ。

そんなに変わらないけど,今よりちょっと幼い顔の菖と,今の菖の顔が重なる。

どちらも,私の大好きな菖。

傷つけてばっかで,結局今も大事に出来てるかなんて分からないけど。

さっきの言葉は嘘じゃない。

やっぱり最初が菖で良かったと,本当に思ってるよ。

私が話さなきゃいけない人は,もう一人いる。

間接的にでも,私が傷つけた人。



「ふぅぅ」

「行ったね」

「うん。雫は何で助けてくれたの?」



ふと疑問に思う。



「……友達だからよ」



赤く頬を染めた雫を前に,私は心からの笑みを浮かべた。
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