臆病な私に,君の溺愛は甘過ぎる。
「…ぉ,あったあっ……」



ー…カチャ。

!?

まるで家全体を支配するように,小さく響いた音。

私は息も忘れて,その場にフリーズする。

隠れる。音の主を声で止める……など。

最悪の事態が起こる前に,出来ることはあるはず。

なのに……驚きすぎた反動なのか,頭も足も動かない。

その間もなお響く,トントンとした足音。

どうしようどうしようどうしよう!!!

もう,こんな真似しなければ良かった…!

後悔が溢れて止まらないけれど,後の祭り。

羞恥やらなんやらで涙が滲んで,私は息を止めたまま,身体をきゅっと縮めた。

お願い,来ないで……

トイレにでも行ってくれれば…と,往生際の悪い私は願う。

が,無情にも澪はその扉を開いたのだった。


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