臆病な私に,君の溺愛は甘過ぎる。
冗談じゃ,無いんだよね。

帰り道を教えて,みおちゃんの背が視界から消えた後,俺はそっと挙げた片手を下ろした。

地面には藍色のアスファルト。

俺が澪に声をかけたのは,確かに偶然だった。

でも,2回目に声をかけた時。

それは偶然ではなかった。

話しているとき,ふっ…と柔らかく笑った澪を,俺は『かっけぇやつだな』ととても気に入った。

次見かけたらまた声をかけようと,どこかわくわくした気持ちになった。

だから,俺はそれを1年前のあの日,帰宅がたまたま被った父親に話してしまったんだ。

あの日話したのが,母だったら。

何度も考える。

父親の,あの驚愕に満ちた顔は今でも忘れられない。


『礼夢,今何て言った?』


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