臆病な私に,君の溺愛は甘過ぎる。
「なん,で……」



澪の困惑した声。

仕方ないとは言え,ここまで感情を乱した澪は珍しい。

ほんと,ごめん……



「っごめん」



数秒して,澪はハッとしたように声をあげた。

そのままUターンしてくれる気配を感じて,私はほっと力を抜く。

が,また体を強張らせる。

ガチャリと響く2回目の音に,多数の人間が侵入してくる気配。

今度こそシャレにならない。

サーっと血の気が引いていく感覚に,私はまたもや動けなかった。

今動けないと,澪にもあらぬ誤解を招くと言うのに。

ぎゅっと目を瞑ったと同時,力強く,何かが私の腕を引いた。

つられてよろりと立ち上がる。

驚きに見開いた目には,唇を引き絞った澪の横顔が映っていた。
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