臆病な私に,君の溺愛は甘過ぎる。
パッと袋を手放す澪。

私はその手元を,一連の動作を,眺めていた。

驚いて顔を上げた時には,澪がもう目の前にいる。



「れ…」



ふわりと,ぎゅうっと抱き締められる私の体。

頭のついていかない私は,ただ,両手を宙に浮かせて,目を見開いた。



「澪…?」



私は,左にある澪の頭部をなんとか見ながら,声をかける。

それ以上は,首が回せない。

恥ずかしいけど,私は左手を持ち上げて,澪の頭をさらさらと撫でた。

どうしたの? っと。

すんっと,大好きな澪の匂いが鼻腔をくすぐる。

今更ながらに,私は状況を正しく把握した。

けれど,私は気持ちをぐっと奥に押しやった。



「何か,あったの…?」

「約束って,なんのこと」

「礼夢くんの言ってたこと…?! あれは…」



澪の震えた声に,戸惑う。

訳が分からないなりに答えようとすれば,それも阻まれる。
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