臆病な私に,君の溺愛は甘過ぎる。
すっと離れていく澪の体。

? …澪? どこに行くの……?

私はつい,片足を一歩踏み出している。

ほんの数メートル先のキッチンまで歩いた澪は,コップに水を入れて戻ってきた。

そしてそれを,私に渡す。



「風呂上がりは,ちゃんと水分とって」



私はそれを素直に受け取って,こくりと喉に流した。

すると途端に心拍数や体温が平常に戻って,ほっと息をはく。

そんな私を目で確認して,澪は言った。



「もうすぐ10時回っちゃうけど,みおと見たいものがある。ちょっとだけ,時間ちょうだい。いい?」



待ってて,と何も言われなくてもわかる。

お互い,10時そこらでどうこうなるような年齢じゃない。

私は1つ頷いて,澪がリビングを出る。

それをしっかり見届けて,私はソファーに腰掛けた。

膝を抱えて,その間に顔を埋める。

澪が来る迄の間,私はトクトクとなる心音を1人,聞いていた。
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