臆病な私に,君の溺愛は甘過ぎる。
その時の澪の表情は,最初と違って本心に見える。
「はぁぁ……」
それを見た私は,後ろ髪を前に引っ張って,くるくると弄った。
……知り合っていたかも分からないような澪が,私の義弟になったのはお互いが小学2年生の時。
その時からずっと一緒だった私には,澪の感情の機微が良く分かった。
澪が口にしたのは,多分,ありがとうとか,そんなん。
2年2組,普通科。
2棟の3階……
なまじ視力が良いために,良く見える。
ツキツキと痛む胸に気付かないふりをするように,私はわざとらしく息を吐いた。
一般的に,それをため息と言うらしい。
ペットボトルの,お水。
ラッピングされた小さな袋。
目を閉じると,たった一瞬だったあの情景が,鮮明に浮かんだ。
まったく,どれだけ神経を使ってたんだろう。
ため息が底をつきなくて困る。
袋の中身はお菓子。
それも食べやすいよう配慮された,1口サイズの。
私は澪がそれを口にするのを,度々家で見ていた。
と,そこまで考えを巡らせ,今度は苦笑いをこぼす。
パチリと目を開けると,視線の先の女の子の,綺麗で長い髪がさらりと靡いた。