臆病な私に,君の溺愛は甘過ぎる。

事件発生。 『恥ずかしすぎて,もう無理』

「みお,おかえり」



帰宅し,靴を脱ぐ私の頭上から降る,大好きな声。

そんなに低くはないけど,私には決して出せない。

この時の澪は普段より幾分柔らかい声を出す。

だから,私の胸も,不規則な音を立てた。

毎日,何年もの間。



「ただいま」



私も,声が震えないように返す。

澪はいつも,私が帰るのを待っててくれてるのかな。

いつ何時に帰っても,必ず廊下まで出てきてくれる。

だとしたら,なんて家族思いなんだろう。

血が繋がってても,ここまでしてくれる弟なんているんだろうか。

そう思うと,やっぱり。

カタンッと靴が音をたてる。

同じ気持ちで同じことを返せないことに,罪悪感を感じた。
< 8 / 262 >

この作品をシェア

pagetop