臆病な私に,君の溺愛は甘過ぎる。
「あの,どうかしたの?」

「…はい?」



声を掛けると,すらっと背の高い女の子は涙目で振り返る。

うわ…

美人。

狼狽えるその子は,そう言うに相応しい綺麗な顔立ちをしていた。

けれど,その様子から察するに,性格とはかなりのギャップがありそうである。

私がにこやかに促せば,おずおずと話し出す。



「…その,わっ私,この辺初めて来たんです。多分,歩いても帰れるんですけど,バスで来たから…帰れなくて」

「えっ? お金無いの? 使っちゃった?」

「そっそうじゃなくて,その,お財布を,落としちゃって…」



なら,仕方ないねと私は頷く。

彼女の荷物を見るに,あちこち歩き回ったようだ。

見つけるのも容易くは無いだろう。
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