臆病な私に,君の溺愛は甘過ぎる。
「私はー」



ここは応えるのが常識と口を開けば,麻冬ちゃんが首をふる。



「次,教えてください」



ふふっと笑う麻冬ちゃんに,私はコクリと頷いた。



「あれ…この料金って」

「どうかしましたか?」

「動物病院の近くに停まる?」

「あっそうです」



チャリチャリと小銭を出しながら私が首を傾げると,麻冬ちゃんはキラキラと顔を輝かせた。



「家近くなんです。知ってるんですか?」



柔らかい声に尋ねられて,私は今更ながら『麻冬ちゃんって,ちょっと声低いんだ』と気付く。

そのせいか何か,私は思い出の一部分をさらけ出した。



「私の,大事にしたくて出来なかった人が,よくそこに帰って行ってたから」



勝手に思い出にして良いのかは,分からないけど。
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