臆病な私に,君の溺愛は甘過ぎる。
お金貰って帰って貰えば良かったのではと考えたのは,提案してすぐ。

だが,他の誰でもない菖なら,そんなことはきっと許されない。



「はぁ」



意図せず漏れるため息。

その時,リビングの扉が開く気配に,私はぴしりと固まった。

何もおかしなことは無いはずなのに。



「みお,チャイム誰だっ…いや誰?」

「……」



麻冬ちゃんがチラチラと私を見る。



「昨日ちょっとお金を貸した…」

「普通出会った順序だよね。普通,俺からなんじゃないの?」



う,と言葉に詰まった。

多分,そのお兄ちゃんで済ませようとしたのが透けて見えたのだろう。

それでも言いあぐねる私。

自覚なく家族に彼氏の存在を秘匿していた私。

今ならその理由が分かってしまうのだ。

菖との事が過去の汚点だとは思わない。

ただやっぱり…(好きな人)には,知られたくない。
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