【完結】橘さんは殺された。


「……ありがとうございます」

「後悔してるのか?好きだって言えなかったこと」

 そう聞かれると、そうなのかもしれない……と思った。

「……多分、そうなのかもしれないです」

 遠くから見ているだけで、充分だと思えたんだあの時は。 

「そっか」

「……今更後悔しても、遅いですけどね」

 橘さんはこの世にもういない。 本人からその答えを聞くことなんて……もう出来ない。 

「だからお前は、刑事になったんだろ? 彼女の死の真相を確かめるために」

「はい。……知りたかったんです、彼女がどうして死んだのか。どうして死ななきゃならなかったのか、その答えを知りたかったんです」

俺はそのために刑事になった。 橘さんを殺した犯人を知りたくて、刑事にーーー。

「……藤嶺」
 
「はい」

「実は俺にもな、婚約者がいたんだ」

 瀬野さんはコーヒーを片手に話し始めた。

「……え?」

 婚約者……? 瀬野さんのこんな話……初めて聞くかもしれない。

「でも俺の婚約者も死んだんだ。……殺されたんだよ、殺人鬼に」

「殺人鬼……?」

 殺人鬼って……どういうことだ?
< 20 / 57 >

この作品をシェア

pagetop