【完結】橘さんは殺された。
俺はお茶のペットボトルのフタを開けて、それを一口飲んだ。
「他には?何か言っていたか?」
「はい。被害者は母親に、相談したいことがあると言っていたそうです」
「相談? どんな?」
「そこまでは分からないそうです。ただ相談したいことがある、とだけ言っていたそうなので」
そう言った俺に、瀬野さんは「相談か……。事件と何か関係があるのか?」と呟く。
「確かに気になりますよね。どんな相談だったのか」
「気になるな」
母親に話を聞いた所、被害者が電話した時は何か悩んでいるかのようなか細い声だったそうだ。
いつも明るく笑顔の絶えない被害者だったそうで、その声を聞いて何か違和感を感じたと言っていた。
「いつもと違う声のトーンだったみたいで、何か違和感があったみたいです」
「違和感?」
「はい。 何か悩んでいたことがあったのではないか、と母親は思ったそうです」
「そうか。……直接ってことは、よっぽど深刻な悩みだった可能性もあるな」
瀬野さんのその答えに、俺は「ですね」とだけ返した。
「よし、母親の件は俺が引き継ぐわ。 俺も母親に再度話が聞きたいから、アポ取ってくれるか?」
「分かりました」
俺は瀬野さんに、事件の捜査の資料などを引き継いだ。
「お前も頑張れよ、藤嶺。……お前なら必ず、無念を晴らすことが出来る」
「はい。……ありがとうございます」
瀬野さんは俺の肩をそっと叩き、カツ丼に再び手を付ける。