ひねくれた純愛 アイリスとカーライル
教授はうつむいて言った。

「トーマス・ハミルトンは
心不全で突然死だったから、
遺書を残していなかった。」

元女房男は憤慨したように
「そう、まったく、
私が本来なら財産相続するように、トーマスがうまくやるって
言っていたのにっ」

トーマスの元女房は、
いらだたし気に靴先で、道路の小石を蹴飛ばした。

もう一人の帽子男が手で、
いら立つ元女房男を制して

「トーマスは亡くなったが、
死後のスキャンダルやトラブルは・・・ハミルトン夫人・・・
君も避けたいと思っているはずだ。

それに、亡くなった夫の私生活を暴かれ、話のネタにされるのも嫌だろう」

教授がようやく口を開いた。
「ハミルトンの古美術は
大学に寄贈した。」

「それじゃあ、あんたがすぐに取り戻しなさいよっ」
元女房男が教授に詰め寄り、
くってかかった。

金目当てのゆすりか、たかり・・・

そろそろ潮時かな
俺は木立の陰からすっと出た。

「教授、時間ですので・・・
お戻りいただきたいのですが」
「カーライル・・!」
その教授の声は、安堵の感情が表れていた。

突然現れた俺を、帽子男は胡散臭い目で見た。

「重要な話の最中なのだが」
帽子男が、俺を値踏みしているように見える。

俺はさりげなく、
教授と男の間に割って立った。

こいつは元女房の、今の彼氏なのか?
たぶんそうだろう。

「会議に遅れるのは困ります」
俺は嘘をでっちあげ、
ひかない気迫を見せつけた。

どうやら帽子男が、主導権をもっているようだ。

それにこいつは、
裏社会ともつながりがある雰囲気がある。

帽子男は俺の顔をじっくりと眺めてから、薄ら笑いを浮かべた。

「わかった、今日は引き上げよう」
帽子男は元女房に声をかけた。

「ええっ・・でもっ・・」

元女房はまだ文句を言いたげだったが、
帽子男に肩を叩かれて渋々従った。
そのまま、
二人は近くに止めてあった車に乗り込み、立ち去った。

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