いっそ、君が欲しいと言えたなら～冷徹御曹司は政略妻を深く激しく愛したい～

エピローグ

「もういいんです、もう、かけてこないでくださいっ！」

　拗ねた声が廊下から聞こえ、史織がこそっとリビングから顔を出す。

　廊下で電話を受けていた薫が、自分のスマホを見つめ頬を真っ赤に染めているのを見て、スススス……ッと静かに顔を引っ込めた。

　見なくても様子を察知したのか、泰章がソファでカタログを見ながら笑いをかみ殺していた。

「薫さん、大丈夫でしょうか」

「大丈夫だろう。意地を張っているだけだ。向こうも復縁に必死だから、時間の問題だろう」

「そうですか……？」

「心配か？」

「それは……はい、心配ですけど、泰章さんの言う通り、大丈夫だといいなって、思います」

　史織も笑みを浮かべて泰章の隣に座る。彼が持つカタログを一緒に覗き込んだ。

　――失踪事件のいざこざが解決して一カ月。

　薫は、なんと婚約破棄したはずの相手から復縁を迫られている。

　当時、婚約破棄は義母が勝手に相手方の父親に申し入れたらしく、かなり失礼をしたようだ。

　呆れかえった男性側の父親が、こんな義母がいる家の娘をもらって親族関係になるのはお断りしたいと、婚約はなかったものとなってしまった。

　男性はかなり抵抗したらしいのだが、まだ父親を説得するほどの力もなく、泣く泣く従ったそう。

　月日が経っても薫が彼を忘れられなかったように、彼もまた同じで、父親を説得できるだけの力をつけ、やっと復縁の申し入れをすることができたのである。

　元凶となった義母の介入はないとわかり、父親も了解しているそうだ。

　あとは、薫の返事次第なのだが……。

　婚約破棄のショックが大きかっただけに、いきなりの猛アプローチに困惑する。

　おまけに薫は、派手な見た目だがその実とても内気でおとなしい。彼から連絡がくるたびにオロオロして……、ドキドキしているようだ。

　いい話が聞けるのも、そう遠くないかもしれない。

「あっ、これいいな。かわいいぞ」