いっそ、君が欲しいと言えたなら~冷徹御曹司は政略妻を深く激しく愛したい~
ガタイのいい強面のパティシエだが、とてもかわいらしいケーキを作る。自作のケーキを眺めて「うちの子は美人だな~」が口癖だ。
よくやった、と言わんばかりに入江がニヤリとするので、史織もにっこりと大袈裟なくらいの笑顔を返した。
彼に見られてはいないかと焦ったが、本人はショーケースを凝視している。視線を動かし、端から端まで見ているようだ。
タオルを持たせたままなのはいけない。史織が両手を差し出すとそれを察したのか「ありがとう」と言ってタオルを渡してくれた。
受け取った際、彼のスーツに手が触れた。ひやりとして冷たいことに気付き、ハッとする。
あれだけ濡れていたのだ。外は少々蒸し暑いくらいかもしれないが、店内は快適な温度に調節されている。
彼の雰囲気が変わって喜んでいる場合ではない。早いところこのびしょ濡れの状態をなんとかしなくては風邪をひいてしまうのはないか。
史織は店内のイートインスペースへ足を向けると、サービスで置いてあるスティックタイプのホットレモネードを作り、紙コップにディスペンサーをつけて再び彼のもとへ戻った。
「お客様、こちらを」
史織の声でやっとショーケースから顔を向けた彼は、差し出されたものを受け取りつつ不思議そうにする。
「これは……」
「レモネードです。あちらのイートインスペースに置いてあるものですが、どうぞ。温まりますよ」
「レモネード……。酸っぱいですか?」
「苦手ですか?」
「酸味のあるものは、少々」
彼はわずかに決まりが悪そうだ。大人なのに好き嫌いがあるのが恥ずかしいのか、男性が酸っぱいものは苦手だと口にするのも子どもみたいで気が引けるのか。
お客様の立場、というものを考えればここで引くのが正解だ。しかし史織は笑顔で押した。
「大丈夫です。きっと美味しいですよ」
「あなたがそう言うなら、いただきます」
彼はもしかしたら、史織が一生懸命勧めているのでその気持ちに応えるつもりで手に取ってくれたのかもしれない。
鼻先まで持っていき、一瞬戸惑いつつ、口をつけた。
「お客様は、きっとお疲れなのだと思います。疲れた時は酸味が心地よく感じますから、美味しく召し上がっていただけると思いました」
史織が言い終わったのと同時に、彼は驚いた顔でカップから口を離す。
よくやった、と言わんばかりに入江がニヤリとするので、史織もにっこりと大袈裟なくらいの笑顔を返した。
彼に見られてはいないかと焦ったが、本人はショーケースを凝視している。視線を動かし、端から端まで見ているようだ。
タオルを持たせたままなのはいけない。史織が両手を差し出すとそれを察したのか「ありがとう」と言ってタオルを渡してくれた。
受け取った際、彼のスーツに手が触れた。ひやりとして冷たいことに気付き、ハッとする。
あれだけ濡れていたのだ。外は少々蒸し暑いくらいかもしれないが、店内は快適な温度に調節されている。
彼の雰囲気が変わって喜んでいる場合ではない。早いところこのびしょ濡れの状態をなんとかしなくては風邪をひいてしまうのはないか。
史織は店内のイートインスペースへ足を向けると、サービスで置いてあるスティックタイプのホットレモネードを作り、紙コップにディスペンサーをつけて再び彼のもとへ戻った。
「お客様、こちらを」
史織の声でやっとショーケースから顔を向けた彼は、差し出されたものを受け取りつつ不思議そうにする。
「これは……」
「レモネードです。あちらのイートインスペースに置いてあるものですが、どうぞ。温まりますよ」
「レモネード……。酸っぱいですか?」
「苦手ですか?」
「酸味のあるものは、少々」
彼はわずかに決まりが悪そうだ。大人なのに好き嫌いがあるのが恥ずかしいのか、男性が酸っぱいものは苦手だと口にするのも子どもみたいで気が引けるのか。
お客様の立場、というものを考えればここで引くのが正解だ。しかし史織は笑顔で押した。
「大丈夫です。きっと美味しいですよ」
「あなたがそう言うなら、いただきます」
彼はもしかしたら、史織が一生懸命勧めているのでその気持ちに応えるつもりで手に取ってくれたのかもしれない。
鼻先まで持っていき、一瞬戸惑いつつ、口をつけた。
「お客様は、きっとお疲れなのだと思います。疲れた時は酸味が心地よく感じますから、美味しく召し上がっていただけると思いました」
史織が言い終わったのと同時に、彼は驚いた顔でカップから口を離す。