いっそ、君が欲しいと言えたなら~冷徹御曹司は政略妻を深く激しく愛したい~
 入店して三年目なので史織の同期ということになるが、彼は二十七歳。他の店にいた経験もある。史織はその前にアルバイトとして三年のキャリアがあるので、年下とはいえ店では実質先輩だ。

 入店した頃から同棲している彼女がいる話は聞いていたが、最初のうちは時々耳にした彼女とのエピソードもいつしか聞こえてこなくなった。

 いつの間にか別れたのか、話すネタがないだけかは、謎である。

 逆三角形の顔型に短髪のツンツンヘア。これだけだとスポーツマンっぽいところ、運動は大の苦手らしい。ラウンド型の大きめな眼鏡のおかげで、そんなイメージが緩和されている。

「おはようございます、國吉さん。なんです? 主役って。わたしの誕生日は今日じゃないですよ?」

 國吉は史織よりも仕事開始時間が早いので、すでにコックコート姿だ。脱いだ帽子を両手で握って、にひひ、と意味ありげな笑いかたをする。

「王子来てるよ~、王子」

「王子?」

「史織ちゃんしか指名しない、火曜日の王子様」

「え!?」

 タイムカードを入れようとしていた手が止まる。驚いた顔で國吉を見ると、彼は悪気なくアハハと笑った。

「なーにビックリして。今日来る予定だったんだろう?」

「……いつもは、お昼頃だから」

「そうじゃなくて、結婚報告に」

「えええっ、結婚っ!?」

 驚いた声をあげたのは、史織ではなく店に繋がる通路から顔を出した同僚たちと、ちょうど通用口から入ってきた由真だった。

「結婚……!? 國吉君、結婚するの!?」

「僕じゃないですよー、こっち、こっち」

 國吉は笑顔で史織を指さす。女子たちの視線が一斉に史織に注がれた。

「僕もびっくりしたよ。火曜日の王子が『中山史織さんと結婚することになりましたので、ご報告に上がりました』って。早くに来て店長とオーナーと話してる」

 肘でトントンと史織をつつき、國吉はひやかすように間延びした声を出す。

「店長に報告するの恥ずかしい~、って、史織ちゃんが困っていたから、彼氏が報告に来たらしいよ。初々しいなぁ、なんかそんな事情聞いてる方が照れちゃったよ」

「史織ちゃんっ、いつの間に~」

「怪しいとは思ってたけどねぇ~」

「やっぱりそういうことだったんだっ!?」
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