いっそ、君が欲しいと言えたなら~冷徹御曹司は政略妻を深く激しく愛したい~
「全部脱がせるぞ」

「泰章さん、待って……ぁっ!」

 泰章は止まらない。首筋をたどる唇がその軌跡を残してしまいそうなほどの痺れを残していく。

「やす……あきさっ……」

 ゆっくりと、それでいて貪欲に肌を貪る唇と、確実に、間違いなく、史織の身体を纏うすべてのものを取り去っていく無情な手。

「ダメ……待って……ぇ……」

 躊躇することも、恥らうことも許されない。未知の感覚が怒涛のように襲いかかり、史織はなすすべがなく流されるしかない。

 彼の素肌が重なった時、嬉しいのか怖いのか悲しいのか憐れなのかわからなくて、感情が爆発しそうになった。

 それでも、なにもできずに惑うだけの史織の官能を引き出し、全身を昂ぶらせてくれる。

 こんな自分は知らない。肌のすべて、神経のすべてが彼に反応する。身体の奥底から湧き上がってくるものが、彼を求めて手を伸ばしているよう。

 初めてひとつになった時、自分の中身まで彼に支配されている気分になった。

 処女を失う時は痛いものだと頭にはあったが、痛いのか苦しいのか、嬉しいのか……よくわからなかった。

 泰章がずっとキスをしてくれていたから、それで意識が分散されていたのかもしれない。

 彼の唇は温かくて……ねっとりと口腔内を嬲る舌は心地がいい。それだけで、意識が飛んでいきそうだったのだ。

 愛の言葉もなにもなく、ただ彼にされるがままの初夜ではあれど。

 しっかりと史織を昂め、気持ちまでほぐしてくれた。

 泰章に優しさをもらった気がして、嬉しかった。



 ――あれから、どのくらい時間が経ったのだろう。

 新婚初夜。本当なら、幸せで幸せでたまらない時間のはず。

 そんな夜に史織はひとり、スイートルームのベッドの中で身を縮めていた。

「泰章さん……」

 身体の奥が熱くて、まだ彼の熱が灯っているのかわかる。

 それが余計に、悲しかった。
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