いっそ、君が欲しいと言えたなら~冷徹御曹司は政略妻を深く激しく愛したい~
 誰もいないのだから気にすることもないのかもしれない。それでも、全裸でうろつくなんてアパートでひとり暮らしをしていた時だってしたことがない。

 思った通り、泰章からメッセージが入っていた。

【十四時には迎えが来る。それまでに用意して待っているように。夜は早めに帰るから、おとなしくしていろ】

 荷物の片付けでもして部屋から出るな。とも言われた覚えがある。彼はよほど史織を烏丸家でウロウロさせたくないらしい。

(その方がいいかな……)

 烏丸家には行ったことがない。大きなお屋敷らしいし、下手に動き回らない方がいいのだろう。

 屋敷には薫も住んでいる。あとは数人の家政婦が通っているらしい。

 泰章のメッセージをジーッと眺め、返信した方がいいだろうかと悩む。彼は要件を伝えただけだ。反応したら余計なことはするなと怒られないだろうか。

 しかし、既読スルーを気にする方だったら、反応しないと怒られるのではないか。

(わかりました、のメッセージスタンプだけ送るとか……)

 スタンプだけというのも、真面目な人は気に障るかもしれない。

 店に通ってくれていた頃の泰章のイメージなら、かわいいニャンコがOKのテロップを持って耳をピコピコさせているスタンプだけを送っても「かわいいね」と笑ってくれるような気はするが、あれが作りもので、今のクールな泰章が本当の彼なのだとしたら……。

(……無理……怒られる)

 やはり当たり障りなく、了解の返信はした方がいいだろう。

【わかりました。お仕事頑張ってください】

 このくらいなら怒られないだろう。ひとまず返事はしたことでホッと安堵すると、メッセージの着信音がして身体がビクッと跳ねた。

「え? なに?」

 見ると、泰章からだ。あまりにも高速な返信に驚くものの【今起きたのか?】と質問されている。これは悩む必要なく返しても怒られないやつだ。

 一度深呼吸して、【はい】と返す。二文字だけなのに、彼と繋がっているのだと思うと妙に緊張した。

【昼だぞ】

「ええっ!?」

 スマホを両手で握りしめてガバッと起き上がる。上半身丸出しだが、それ以上の衝撃と恥ずかしさで気持ちがいかない。

 スマホに表示される時刻は正午過ぎ。おそらく泰章は昼食の時間だったのだろう。それだから反応が早かったのだ。
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