いっそ、君が欲しいと言えたなら~冷徹御曹司は政略妻を深く激しく愛したい~
(わわっ! 出たぁ、妹想いのお兄さん顔!!)

 笑顔を崩さず、史織は心の中で歓喜する。泰章は時々、『妹のぶんも』と言ってお土産用を購入してくれる。それがまたはにかんだような少し照れくさそうな顔で口にするので、見るたびに史織は胸の奥がくすぐったくなってしまうのだ。

(なんて優しいんだろう。きっと兄妹仲がスッゴクいいんだろうな。烏丸さんに懐いたかわいい妹さんなんだろうな)

 頭の中ではぬいぐるみを抱いたツインテールの小さな女の子を想像してしまうが、そんなはずはない。

 泰章が史織より十歳年上なのだから、妹だって史織より年上の可能性が高い。

(でも、いいな……兄妹の仲がいいのって)

 史織はひとりっ子だ。それがいやだとも思ったことはないが、兄弟姉妹がいる友だちはだいたい文句ばかりで、あまり仲がいいという話を聞いたことがない。

 そのせいか、泰章が妹のお土産を選ぶ時の顔を見るときゅんきゅんしてしまう。この胸の高鳴りは妹想いのお兄さん、という部分に感情が衝き動かされているだけだ。

(これを〝萌え〟っていうんだろうなぁ……)

「それでしたら、一個入りの方に保冷剤をお入れいたしますか。いつものようにご帰宅まで会社の冷蔵庫に入れておかれるのでしたら、入れる時には取って……」

「あっ、いえ、保冷材は……」

 説明の途中で言葉を挟んできたので、もしかして保冷材は必要ないのだろうか。しかし泰章の言葉は予想の斜め上を行っていた。いや、行きすぎていた。

「二個の方に、入れてもらえますか? 一個は社に戻っていただくつもりですが、別の方は、帰宅してから食後のお茶の時間にいただきたいので」

 食後のお茶の時間。

 くらぁ……っと、めまいがしかかる。

 常々思ってはいたが、とんでもなくお坊ちゃん発言である。

(それも、妹と一緒に食べるんだよね。なに、この微笑ましさはっ)

 にやけてしまいそうな顔を笑顔で引きしめ、史織は「かしこまりました」と箱詰めをはじめた。

 ケーキを取ったり箱に詰めたり、保冷剤やお会計の準備をして、なにをしていても泰章を担当している時はとんでもなく緊張する。

 終始、泰章の視線を感じるからだ。他のお客さんのように別の商品を見ているわけでもなく、ずっと史織に目を向けている。

 見張られている気分になって怖かったこともあったが、最近では緊張すると同時に照れくさくなる。
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