いっそ、君が欲しいと言えたなら~冷徹御曹司は政略妻を深く激しく愛したい~
 ――その後、夕食が終わるのを見計らったように百貨店の外商の人間が五人もやってきた。

 正確には、ひとりは外商の責任者なのだろう。何度も泰章に頭を下げながら話をし、ふたりの女性は泰章や史織に商品を説明し、残りの男性ふたりは車と部屋を何度も行き来しては持ち込んだ商品の箱を運び、品物を出しては広げ、泰章が首を横に振れば片付け、の繰り返し。

 いったいどのくらいの品物を用意してきたのか、インナーからトップスやスカート、ワンピース、カーディガン、ショール、コートまで。目が回るほどの品ぞろえだ。

 ほくほく顔の外商が帰った時は、史織の方が疲れ切っていた。

 部屋に付属したバスルームで入浴を終えてひと息つくと、二十二時を回っている。ベッドの端に座り、クローゼットの扉を見つめる。

 あそこには、泰章に認められた洋服たちがずらっと入れられている。彼が頷いた端から外商がハンガーにかけていた。

(見るのが怖い。きっとわたしの服とは思えない物がたくさん入ってる……)

 とはいえ、別に派手派手しいというわけではない。史織も一緒に見ていたが、かわいいな、素敵だな、と思ったものには必ず泰章も頷いていたので、史織に似合うと思って選んでくれているのだと思うと胸がきゅんっとする。

 泰章が史織のことを考えて選んでくれた洋服。

 きっと身に着けるだけでドキドキする。

(似合うとか……言ってくれるかな……。無理に決まってるか)

 希望を持ちつつもダメ出しをして自己解決。

 部屋のドアが開く音がして顔を上げると、メインルームから泰章が顔を出した。

「史織、出たのか?」

「はい、泰章さんもお風呂どう……ぞ……」

 言葉が途中で途切れる。グラスをふたつ持ってベッドルームに入ってきた泰章は、史織と同じくパジャマ姿だ。髪が濡れたまま首からかけたタオルにしたたっている。

「泰章さん、お風呂は……」

「一階で入ってきた」

「あ、一階にもあるんですね。それもそうか」

「部屋の風呂より大きい。今度一緒に入るか」

「えっ! い、一緒っ、ですかっ!?」

「なんだ」

「ぁ……ぃいえ、はい」

 どう反応したらいいかわからない。夫婦なのだから、一緒に入浴したっていいのだろうし、いやだという理由もないのだが。

 わかっていても、恥ずかしい。
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