いっそ、君が欲しいと言えたなら~冷徹御曹司は政略妻を深く激しく愛したい~
「はい、少し……」

「もう処女じゃないのに?」

「それでもっ、まだ……」

 勢いがついた声は、すぐにおとなしくなる。いくらハジメテではなくたってまだ一度しか抱かれたことはない。すぐに恥ずかしくなくなるはずもない。

「それもそうだな」

 彼の手がショーツから離れたので、いきなりは諦めたのかと史織も指を離す。まだ目の前にある怜悧な双眸に狡猾さが宿り、ドキリとした瞬間、スルッと小さな布を奪われた。

「や、泰章さ……」

「心配するな。恥ずかしいなら、恥ずかしいなんて考えられなくすればいいだけだ」

 なにを言われているのかわからないまま、両脚を大きく開かれる。恥ずかしい部分に厚ぼったいものが撫でつけられた時、羞恥のゲージが振り切れそうなほど上がった。

 昨夜とは違う種類の愉悦におそわれ、身体の中心から湧き出るものを自分ではコントロールできない。

 与えられる甘い刺激に容赦はなく、重なった肌の感触さえ史織を痺れさせた。

 四つん這いになって揺れていた身体は、だんだんと蕩かされてシーツに溶けていく。お酒に酔った時のように頭がぼんやりとして、深い奈落に堕ちていく。

「やす……あきさ……」

 体温が上がりきるほど火照った感覚が、史織の意識を奪った。

 

     *****



 ――やってしまった……。

 裸の史織を片腕に抱いて、泰章はひとり眉間にしわを寄せた。

 本当ならば昨夜よりは深く史織を愛せた満足感に浸るべきなのだが、泰章には浸りきれない理由がある。

(ダメだ……本当にダメだ……)

 史織に冷たくできない自分がいる。今日だって、福田と話していて彼女に情を見せないようにしなくてはと改めて感じたはずなのに。

 気が付けば、馬鹿みたいに早く仕事を終わらせて帰ってきてしまった。第二秘書が『鰻重のおかげですね』とご満悦だったのは言うまでもない。

 屋敷に到着してからも、ここに史織がいるのだと思うといても立ってもいられなかった。

 眠る史織の顔を眺め、泰章は切なさに胸が疼くのを感じる。

 ベッドの中で彼女を抱いて眠れるなんて、なんて幸せなのだろう。昨夜は耐えきれずにすぐベッドを出てしまった。

「かわいかったな、史織」

 泰章のウエストコートを握って嬉しそうだった彼女。『……泰章さんの匂いがする』なんて言われて平常心など保てるものか。
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