いっそ、君が欲しいと言えたなら~冷徹御曹司は政略妻を深く激しく愛したい~
本当は仲がよい兄妹なのだ。以前彼が話してくれたように、お茶の時間に一緒にケーキを食べるくらい。
「ありがとうございます。お話してよかったです。お仕事中なのに、すみませんでした」
史織は頭を下げて踵を返す。視界の隅に書斎に置かれたソファベッドが目に入る。背もたれが起きていてソファ型に戻されてはいるが、泰章は毎日ここで休んでいるのだろう。
胸がきゅうっと切ない音を立てる。仕事が忙しいのだから仕方がない。余計なことは言っちゃいけないとわかってはいても、ひとりのベッドは寂しい。
(結婚する前はひとり暮らしで平気だったのに。結婚したとたんに寂しいとか……。我が儘だな、わたし)
「それと、史織」
「はい、すみませんっ」
いきなり声をかけられ、背筋を伸ばして振り返る。とっさに謝ってしまった自分に気まずさを感じ、胸に抱いたトレイを肘で押さえたまま両手の指先を口にあてた。
泰章も不思議に思ったのか目を大きくして史織を見ている。ちょっとキョトンとしている風で、かわいい。
(また! 泰章さんにかわいいとか、そんなこと思っちゃダメだってば!)
自分で自分を叱りつける。こうでもしなくては、締まりのない顔をして見惚れてしまいそう。
「なに謝ってるんだ」
「あ、いえ。なにか、怒られるのかなって……」
知られるはずのない自分の我が儘を咎められる気がしてしまったのだが、史織はあやふやにごまかす。
「俺は、呼びかけられてとっさに謝ってしまうほど、君を怒っているのか?」
「そんなことはないです。すみません、余計なことを……ぁ」
結局また謝ってしまった。埒が明かないと思ったのか、泰章は小さく息を吐いてデスクに向かう。史織に向けられていた目はパソコンのモニターに奪われてしまった。
「日曜の夜、叔父叔母たちと食事会がある」
「食事会ですか?」
叔父叔母と聞いてドキリとする。叔母といったら初日に史織を誘おうとしたふたりではないか。
「俺は出席するが、君は出なくていい。仕事から戻った時には出かけた後だ。食事は家でとれ」
「わかりました」
史織は会釈をして書斎を出た。
「お留守番か……」
「ありがとうございます。お話してよかったです。お仕事中なのに、すみませんでした」
史織は頭を下げて踵を返す。視界の隅に書斎に置かれたソファベッドが目に入る。背もたれが起きていてソファ型に戻されてはいるが、泰章は毎日ここで休んでいるのだろう。
胸がきゅうっと切ない音を立てる。仕事が忙しいのだから仕方がない。余計なことは言っちゃいけないとわかってはいても、ひとりのベッドは寂しい。
(結婚する前はひとり暮らしで平気だったのに。結婚したとたんに寂しいとか……。我が儘だな、わたし)
「それと、史織」
「はい、すみませんっ」
いきなり声をかけられ、背筋を伸ばして振り返る。とっさに謝ってしまった自分に気まずさを感じ、胸に抱いたトレイを肘で押さえたまま両手の指先を口にあてた。
泰章も不思議に思ったのか目を大きくして史織を見ている。ちょっとキョトンとしている風で、かわいい。
(また! 泰章さんにかわいいとか、そんなこと思っちゃダメだってば!)
自分で自分を叱りつける。こうでもしなくては、締まりのない顔をして見惚れてしまいそう。
「なに謝ってるんだ」
「あ、いえ。なにか、怒られるのかなって……」
知られるはずのない自分の我が儘を咎められる気がしてしまったのだが、史織はあやふやにごまかす。
「俺は、呼びかけられてとっさに謝ってしまうほど、君を怒っているのか?」
「そんなことはないです。すみません、余計なことを……ぁ」
結局また謝ってしまった。埒が明かないと思ったのか、泰章は小さく息を吐いてデスクに向かう。史織に向けられていた目はパソコンのモニターに奪われてしまった。
「日曜の夜、叔父叔母たちと食事会がある」
「食事会ですか?」
叔父叔母と聞いてドキリとする。叔母といったら初日に史織を誘おうとしたふたりではないか。
「俺は出席するが、君は出なくていい。仕事から戻った時には出かけた後だ。食事は家でとれ」
「わかりました」
史織は会釈をして書斎を出た。
「お留守番か……」