桜の花が咲く頃に、僕はまた君に恋をする。
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「失礼しまーす.......」


翌日の放課後、周りに人がいないのを確認してからこっそり音楽室に入ってみた。

滅多に人が来ない棟らしいから大丈夫だろうけど、先生にバレると多分怒られるからちょっとドキドキして楽しい。


悪いことして、高校生って感じだ。


ピアノの蓋を開け、椅子に座って鍵盤に手を添える。

たった2年だけど、なんだかちょっと懐かしい。

弾いていた頃の記憶を探しながら簡単な曲を弾いてみると、想像以上に指がなまっていてうまく弾けなかった。


「____上手いね、ピアノ。」

「っわ!!?.......ぁ、星奈くん.......」


後ろから突然話しかけられて、驚きのあまり自分でもびっくりするくらいの大声が出た。

そんな私の声に驚いたのか、星奈くんはしばらく固まって動かないものだからだんだん恥ずかしくなって顔が熱くなるのを感じる。


入学式の日と言い、星奈くんの前だといっつも顔赤くなってるな、私。


「あははっごめん、そんな驚くとは思わなくて。俺までびっくりしちゃった」

「な、何しに来たの.......」

「たまたまここ通りかかったらピアノの音が聞こえてさ。桜木さんピアノ弾けるんだね」


誰だったっけ、ここ全然人通らないよって教えてくれた先輩。

めちゃくちゃ通ってるんですけど。

何せこの前の2回目の告白から目が合っただけで顔が真っ赤になるものだから、授業中以外はなずなの席に避難して話さないようにしていたせいで今更2人っきりになるのは気まずすぎる。


「あ、あんまり上手くないけど.......その、中学で辞めちゃったから」

「そうなんだ。.......俺もね、ピアノ弾けるんだよ」

「.......え、ほんと?.......星奈くんが?」

「うん。小学生の頃習ってただけなんだけどね、まだピアノ残ってるからよく弾くんだ」


意外.......だけど、様になるような気もする。バイオリンとか、偏見だけど楽器はなんでも似合いそう。


「.......なんでピアノ辞めたの?」

「あー.......えっ、と.......中一の時、お母さん病気で死んじゃって.......それで、かな.......」


話しているうちに気まずくなってきて、だんだん声が小さくなっていく。

俯いたままちらりと星奈くんの方に目を向けると、彼は想像以上に驚いた表情を浮かべていて、「大袈裟」とも言えるくらいに、瞳が揺れていた。


瞳が揺れているのは“動揺しているから”だと、何かで聞いたことがある気がする。


「そ、う、なの.......?」

「うん.......あ、でももう大丈夫だから!ほんと、全っ然平気だから、その.......」


うう.......なんか、空元気みたいになっちゃった。

変に心配されたり気を使わせたりしないように振舞ったつもりが裏目に出て、星奈くんの顔が余計に歪む。

これ以上話すとさらに誤解を与えてしまいそうで、諦めて再び目線をピアノへ落とした。
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