桜の花が咲く頃に、僕はまた君に恋をする。
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「おはよう、桜木さん」

「おはよう星奈くん 」


春の景色も遠のいた5月中旬。

音楽室でのことがあって、私と星奈くんはあれからよく話すようになった。

勉強で分からないところを聞いたり、昨日あった面白かったことや嬉しかったこと、些細なことを話したり。

そのおかげもあってか随分とお互いについて分かるようになったし、普段は見えない色んな星奈くんを知った。


「今日すげー暑いね、セーターいらないくらいだ。」

「最高気温25度なんだって。3時間目の体育持久走だから絶対汗だくになる!」

「は!?まじかー.......俺今日長ズボンしか持ってきてないのに」


例えば、意外と口調がやんちゃな男の子っぽいこと。

初めは大人しい感じで真面目っぽかったけど、仲良くなるにつれてだんだんくだけていった。


出会ってすぐに告白してきたり変な人だと思ってたけど、実際仲良くなってみれば面白くて聞き上手で、いつの間にか一緒にいて“楽しい”なんて思ってる自分がいる。


不思議だ。たくさんのことを背負って辛かった毎日も、今はこんなにも楽しさと幸せで溢れてる。


それは多分.......星奈くんのおかげ。


「.......あ、そうだ。汐ー」

「んーどしたの」


汐と呼ばれてこちらにやってきた男の子。

確かクラスメイトの夜西 汐(よるにし しお)くんだ。


「お前体操服の半ズボン2つ持ってたよな、ひとつ貸してくれ」

「なに、忘れたの?春希らしくないねぇ。もしかして失恋でもした?」


.......なんだか、すごく親しげな様子。

星奈くんも夜西くんのからかいに「うるせぇ馬鹿」と返しながらも心做しか楽しそうで、他のクラスメイトと話す時の何倍も表情が明るく見える。


「あ、桜木さんだよね。最近春希とよく話してるとこ見るから仲良いんだなーって思って」


“仲良い”.......か。そっか、周りからもそう見えるんだ。

何となく嬉しいような、くすぐったいような、変な感じ。夜西くんの言葉で、色んな気持ちが心の中に浮かんできた。


「夜西くんも星奈くんと仲いいんだね、同じ中学だったとか?」

「や、俺と汐は幼なじみ。家が隣なんだよ」

「そうそう、だから幼稚園から高校までずっと一緒なんだ。春希イケメンだから僕の自慢の幼なじみ」


幼なじみ。だからそんなに親しげなんだ、とか言う前に、ちょっとびっくりした。


「(夜西くん、“僕”って言うんだ.......)」


別に驚くことじゃないんだろうけど、何となくイメージと違ったから引っかかってしまった。


だって、夜西くん茶髪だし。


「.......僕って言うの意外だなとか思った?」

「え、あ.......うん、ちょっとびっくりしちゃった。正直夜西くんって髪の毛染めてるしチャラい人なのかなって思ってたから」

「全然。むしろこいつすごい真面目だし、髪の毛染めたのは.......なんだっけ?何となくだよな」

「な、なんとなく.......」


校則的には一応大丈夫だけど、実際に染めてる人は少ないから結構目立ってたし、てっきり怖い人なのかと思ってた。

でも実際は明るくて、僕呼びで、しかも星奈くんとは幼なじみ.......

それに染めた理由が「なんとなく」とか、夜西くん、なんだか私が想像していた人とは全然違う。


「そういえば桜木さんも日野さんと仲いいよね、幼なじみ?」

「ううん、私たちは__」

「同じ中学だったんだ〜、なになに何の話してたのー?」


私の言葉にかぶせて、いつの間にか後ろにいたなずなが代わりに答える。

「楽しそうだったから来ちゃった、私も混ぜて?」とキラキラした瞳を向けてきたので、今度は4人で色んな話をして、気づけば授業が始まるギリギリまで話し込んでいた。


夜西汐くん。新しく増えたお友達。


またひとつ毎日の楽しみが増えたような気がした。
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