Trust
プロローグ
波の音だけが聞こえる世界。
真っ青の世界。
どこまでも広がっているようで、広がっていない場所。
そんな場所で聞こえる波音以外の音。

好きだなんて、言葉は要らない。
愛しているなんて、言葉も要らない。
欲しいのは、貴方を愛せる心。
貴方の心が欲しいだなんて言わないから、どうかこのまま貴方を愛させて。
貴方が見ている世界はどんな景色?
貴方の瞳にはあたしは映っている?
一瞬でもいいから貴方の瞳の中に映りたい。
その願いは叶うことなんて無いかもしれないけれど
せめて、貴方を思う気持ちだけは消えないで。


ソプラノのよく響く声で歌われた曲は波の音に負けないぐらいに響いているせいで、歌詞がより一層切なさを感じさせた。
歌い終わったのか、浜辺に立っていた少女らしき影は肩を揺らし、嗚咽を小さく漏らす。


「…最後にするから……、これで泣くのも…、歌うのも最後にするから……」
小さな呟きは誰に言ったわけでもなく、波の音に飲まれて、消えていった。
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