Trust
「ただいまぁ」

聞こえるのか、聞こえないのか分からないくらいの声で言う。返事は返ってくるときもあれば、返ってこないときもある。
お気に入りのオレンジの水玉のスリッパに足を突っ込むと、少しだけ開いているリビングのドアノブを引いた。

「おかえりィー」

リビングに足を踏み込んだとき、少しハスキーな声が聞こえた。
久々に返事を返してもらったような気がする。

リビングにいるその人はさっきまでパソコンに齧(カジ)りついていたのか、机の周りにはたくさんの資料と思われる用紙と、茶色のA4サイズの封筒が散らばっている。

あたしは椅子に座っている人物を見た。
外見は、はっきりとした二重の瞳が少々釣り目がちで、真っ黒なミディアムに切られている髪型が彼女をいかにも『出来る、いい女』に見せている。
でも、実際は大雑把で料理もろくに出来ない男勝りな性格の持ち主だったりするんだなぁ。そのお陰であたしに家事全般が回ってくる羽目になってしまった。

そして、あたしとこの人の関係は叔母と姪にあたる。

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