Trust

「世良、今日はちゃんと放課後行ってあげなよっ!朝、せっかく聞いてくれたんだからさぁ」

机の近くまで来ると、富貴はさらに悩ますようなことを言ってくる。

「富貴はあたしが人にピアノを演奏しているところを見られたくないことを知っているでしょ!?」

富貴に向かって言いたい言葉じゃないのに、口調がきつくなってしまう自分に本気で嫌気が差してくる。
でも、嫌なんだ。
弾いているときに、人に見られるのも、聞かれるのも。
ピアノを弾くときは唯一あたしだけの世界が創りだせるんだから。

「けどさぁ……」

形の良い眉毛をハの字にさせながら納得いかない顔をしてくる。

「とにかく今日は行かないよ。じゃあ、また明日ね」
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