Trust
見回してみるとピアノに近い入り口にあまり見かけない袴姿の男子が立っていた。
顔は入り口から入ってくる逆光のせいでよくわからない。
夢中になって弾いていたから気が付かなかった。
人にはあまり聞かれたくないから、気を付けるようにしていたのに・・・
なんとなく見られていたということに嫌悪感を抱くと、相手に分かるようにあからさまに眉間を寄せた。
文句を言おうと思って、口を開く前に相手のほうが先に話し掛けてきた。

「ピアノ弾いていたのって、やっぱり椎野だったんだな」

……へっ!?

いきなりそんなことを言うから、思わず拍子抜けしてしまった。あたしの名前知っているみたいなんだけど、聞いて良い理由にはならない。
彼は入り口のドアを閉めると、音楽室に入ってきた。
ちょっと、何勝手に入ってきてるのよっ!!

「いつも弾いているのか気になっていたんだ」
そういって、彼はお日様見たいな笑顔をあたしに向ける。
子供のように笑う姿に少しだけ、見惚れているあたしが確かにそこにいた。

180あるか、ないかってぐらい高めの背丈に、長めで無造作にワックスで整えられている綺麗な艶をもっている髪。はっきりとした鼻筋に、凛とした長い切れ目、薄い唇。
初めて見る人だった。
こんなにかっこいい人だったら一回でも見たら覚えているはず・・・
< 6 / 24 >

この作品をシェア

pagetop