Trust
ついまじまじ見詰めてしまい気付いたら、彼は少しだけ不機嫌そうに顔を顰める。
文句でも言われるのかと思ったら、彼の口から出た言葉は不満の言葉ではなくあたしの予想としてものとは違った。

「もしかして、俺のコト覚えてない?」
自分のことを人差し指で指し、「参ったなぁ」なんて言いながら、頭をぽりぽりと掻いた。
「あのさ・・・」

「おーい!!要(カナメ)、次お前の番だぞ!!」
廊下からだろうか。低めの怒鳴り声によって、彼の言葉が中断された。
「……」
沈黙が二人の間を流れる。
思いっきり嫌そうな顔をしたあと、頭を抱え込んだかと思うと勢い良く上げて、

「あ―、くそっ!!」
そう言って、音楽室のドアを思いっきり開けると、
「わかった!!!すぐ行く!!!」
相手に大声で叫ぶと、出て行こうと歩き出したとき、
「あっ!!椎野はよくここに来るの?」
「えっ!?あ、うん!」
突然の質問にあたしの声は見事に裏返った。
きっと、ずっと喋ってなかったからだ。ってか、ちゃっかり質問に答えちゃってるし。
「んじゃ、また来るな!あと、俺の名前は司馬要(シバ カナメ)ってことで、今度は覚えておいて!」

「要ぇぇー!!早く、来いっての!!」
再び怒鳴り声が廊下いっぱいに響き渡る。
「へいへい、今行く!」

音楽室から勢い良く出ると、ドアを閉めるのも忘れて、走り出した音が聞こえた。
微かに廊下から怒号が聞こえてきたけど、なんて言っているのか聞き取れない。

何とも慌ただしい人だった。
ってか、また来るとか言ってなかったけ?
当分音楽室に来るのは止めておこう。

会ったこともあるみたい。でも、そんなの覚えていない。
だから、大して気にも留めて置かなかった。

けど、人と人の出会いって不思議だ。
当時はそんな風に思っていたけど、今になってはそれな何より愛しい思い出。



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