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校門を出ると、夏に近付いていることを教えるような暑めの風が、爽やかな緑の香りと共に通り過ぎた。
もう、夏がすぐそこに来ているんだなぁーと、感じさせてくれる。

夏はあまり好きじゃない。暑いし、日焼けをする。
でも、それ以上に夏が嫌いになった理由は3年前に起こったことのせいかもしれない。
夏が近付くたびにこの国に四季なんか無ければよかったのにと思う。
それが、夏に対するささやかな抵抗。
だって、あたしがどんなに夏を嫌ったとしても、夏は必ずやって来る。

それをさらに気付かせてくれるのは、駅前のCDショップだ。
店頭には新しいシングルのCDと思われるものが並べられている。
アーティストのポスターなんかが貼られていて、随分と宣伝されている。

その中に目当ての物は無かったから、店内に足を運ぶことにした。
店内にも今流行の曲や、人気のアーティストのCDが置いてあったり、試聴できるようになっている。
でも、そんなのに目もくれず、隅の方にあるコーナーに進んでいく。
張ってあるポスターは随分昔に撮影されたものを使っている。

ポスターの脇の文字には『伝説の歌姫を悼む』と書かれていた。
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