クビになった聖女ですが、嫁ぎ先で真の力が目覚めたので第二の人生は幸せです なぜか辺境竜騎士様の溺愛が止まらないのですが!
 がしりとデーセオは妻の細い手首を掴んだ。驚いた彼女の顔が、その手の下から現れる。
「その。俺たちの出会い方は、普通ではなかったかもしれない。だが、お前を他の男から奪うためにはそうするしか方法が無かったんだ。それだけは分かって欲しい。そう、俺が金を出してお前を買ったのは、他の男からお前を奪うためだったんだ」
 と、自分を正当化するかのようにデーセオは言う。
「先ほども言ったが。その、出会い方はちょっと普通ではないかもしれない。だが、それでもそうやってでも、お前と出会えたことは今では良かったと思っているし。その、俺の妻として隣にいてくれることは、誇らしいと思う」
 レーニスの赤い目が、陽炎のように揺らめいている。
「レーニス。俺と結婚してくれてありがとう。俺は、レーニス、君を愛している」
 再びその赤い目から涙がふるふるとこぼれ始めた。
「その、泣かないでくれないか。その、お前の泣き顔を目にしたら、その、どうしたらいいかがわからない」

「でしたら、見ないでください」
 言うと、レーニスはその顔をデーセオの胸元に預けた。悲しくて泣いたわけではない。嬉しくて涙が出てきたのだ。
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