クビになった聖女ですが、嫁ぎ先で真の力が目覚めたので第二の人生は幸せです なぜか辺境竜騎士様の溺愛が止まらないのですが!
 もしかしたらパエーズ卿はいい人かもしれない。レーニスのことを娘のようの可愛がって愛でてくれるかもしれない。そんなときはそれにひたすら甘えればいいのだ。
 だが残念ながら、あの祈りの間でのことを思い出す限り、それは期待できないだろう。恐らく彼はレーニスを奴隷のように扱うはず。

 女は未亡人になってからの方が、価値があがるのよ、と祈りの間でとある貴婦人が口にしていたことを思い出した。

 それに解呪が行えるということは、その逆で呪うこともできる。聖なる力がない今、その呪いもどこまで有効かはわからない。さらに、解毒ができるということは、毒の知識もあるということ。だからこっそりと少しずつ、ばれないように毒を飲ませ、彼の死期を早めればいいのだ。そうすればレーニスは自由を手に入れることができる。

 と、そこまで考えた時に、自分自身が恐ろしい考えに支配されていくことに気付き、かぶりを振った。聖なる力を失ったとしても自分は元聖女候補。その聖女候補が、他人の死を望むということは、あってはならないこと。
 レーニスは箱ごと持ってきた美味しいお菓子から、一つそれを取り出して口の中に放り込んだ。それはとても甘ったるかった。
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