◆ラヴェンダー・ジュエルの瞳
◆第六章◆頼ってばかりはいられない!?

[46]空気 〈Y&R〉

 此処は……何処?

 瞳には何も映らなかった。でも、そうだ……多分脱出用シューターを兼ねる寝台カプセル。その中で赤ん坊のように丸くなっているみたい。

 全ては夢だったの?

 何ておぞましい悪夢だったのだろう……ウエストは本当はウェスティで、本当は悪者で、本当は……あたしの両親を殺した人で……本当に……夢、だよね?

 あの化け物の名前と姿を鮮明に思い出し、あたしは更に身を丸め、枕に顔を(うず)めようとした。途端切り揃えたサイドの髪がサラサラと落ちてきて、その髪色にドキリと一つ心臓が飛び跳ねた。

 地色のホワイト・ゴールド。ピンク・グレーだった手掛かりは、もう何処にもない。

 一束毛先を取った手を辿れば、白い袖口が見えた。ドレスだ……ドレスのままだ……やっぱり、夢じゃないんだ──。

 覚えているのは、ラヴェルに抱きついて号泣したところまでだった。あれから泣き疲れて眠ってしまったのだろうか? 立ったままで!? あいつは柔らかく抱き留めて、何も言葉にはしなかった。それから眠ったあたしを、以前のように此処へ運んだのだろうか? また……顔も洗えず、着替えもせずに寝ちゃったのか……。

 ──ゴトン。

 その時、天井に向いているあたしの左耳に物音が降りてきた。そうだ……あの時もこんな音だった。ツパイと初めて遭遇した時! ツパイ、起きたんだ!!

「ツ、ツパイ!!」

 あたしはスカートがめくれるのもいとわずに、慌ててカプセルから身体を押し出した。一度ペタンと床に着き、すっくと直立してツパイのカプセルへ振り向く。


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