◆ラヴェンダー・ジュエルの瞳

[59]糸口 *

「ファースト・コンタクトは失敗かぁ……」

 あたしは街の中央の大きな教会入口で、大理石の円柱にもたれ溜息をついた。

 痛い程の太陽が真上に昇り、それから逃れるように日陰を見つけて早十五分。水飲み場から(すく)った水をドライフルーツの空いた袋に入れてやり、アイガーはヘの字顔のあたしの隣で、それを美味しそうに舐めていた。

「どうやって誤解を解こう……」

 まさかミルモが両親をそんな風に思っているなんて予想もしなかった。ミルモのお父さんはどれくらい前に【薫りの民】の奥さんと知り合い再婚されたのだろう? ミルモは義理の母親となった彼女と仲良く出来ていなかったのだろうか?

「とりあえず……明日また挑戦しよ」

 飲み終えたアイガーの視線を感じ、あたしは気落ちして重くなった身体を何とか起こした。もうランチタイムは過ぎているけど空腹は感じない。とぼとぼと歩きながら必要な『道具』を探す為、観光客でごった返す人ごみの中を歩き始める。あの昨夜取りに戻った『忘れ物』と共に必要な道具だ。

「アイガー、此処でちょっと待ってて」

 あたしは大通りの角にお目当ての店を見つけて独り入っていった。どのお店も小じんまりとしているが、そこそこの品揃えがある。幾つかを手に取り感触を確かめ、しっくりきた物を一つ購入した。

 それから数軒先のウィンドウに、もう一つ買おうと思っていた物が垣間見えて足を止めた。……どうしようかな、と迷いながらも再び入店する。──ピンク・グレーの染髪剤。街に着いたら戻したいとラヴェルには言ったけど……ミルモを想えば、こんな明るい髪色にする気にはなれなかった。

 全てが成功した時、お祝いに染め直そう。

 その時の為に──そう決めて、あたしは握り締めた髪染め粉も所望した。


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