◆ラヴェンダー・ジュエルの瞳
 夕食用に数種の魚介を買い求めて、一番暑い時間にコテージへ戻った。

 リビングにも前の庭にも誰も居ない。きっと練習を終えて、この活動しにくい時間帯は休むことにしたのだろう。エントランス左右のタラとラヴェルの部屋は、どちらも扉が閉じられていた。

 キッチンで貝を洗い、とりあえず砂抜きの為に水に浸した。あたしも少し休もうか? お礼を言いながら見下ろしたアイガーも気付いたのだろう、頷くように首を振り、ツパイの部屋へと戻っていった。

「ミルモの誤解って……」

 自室のベッドに横になり、小鳥のサシェを顔の上にぶら下げた。匂い立つラヴェンダーの香り。こんなに心穏やかにしてくれるのに……あの『炎』を思い出したら、また胸が痛み出してしまう。

 それからしばらく悶々と考えている内に、いつの間にかうたた寝を始めていた。ミルモのパズルはどうしたら解けるだろう? ピースは何処に隠されているのだろう? 【薫りの民】──余り覚えていないけれど、あたしの母さんもラヴェンダーの香水を作っていただろうか? 母さんの香水はどの色も綺麗で、どの香りも(かぐわ)しかった。父さんはそれを誇らしげに街へ売りに行った。時々一緒について行った大きな市場で、二人はあたしに美味しいフルーツやお菓子を買ってくれた……父さん、母さん……あたしは──!?


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