◆ラヴェンダー・ジュエルの瞳

[63]憤怒

「おはよー、ツパイ」

 ロガールさんのお宅で目覚めた朝の真逆だ。あたしの呼ぶ声に向けておもむろに寝返りを打つ。相変わらず瞳を見せないツパイの表情は、それでも驚いたみたいだった。

「ユ、ユスリハ……お、おはようございます?」

 ツパイは慌てて布団から這い出し、

「なかなか良いコテージですね」

 首を左右にぐるりと巡らせ、部屋の様子に口角を上げた。

「うん、とっても快適よ。で……そろそろ起きられますか? 朝食もまもなく出来ますよ」

 と、あたしはツパイの口調でウィンクしてみせた。ツパイは珍しく吹き出し、あたしもそれに吊られて笑顔になった。

「どうですか? ラヴェルの調子は?」

 ツパイは寄ってきたアイガーの頭を撫でた。「アイガーから全て聞いています」と言い、こちらへ顔を戻す。一番にラヴェルを心配してきたのは、王宮で彼の許、仕事をしていたからだろうか?

「んーあたしも日中は出ていたから、剣術の方は良く分からないけど。準備は整いつつあるんじゃないかな。料理や掃除は分担してやってるわ。昨夜はタラがラムのハーブ焼きとサーモンのキッシュを作ってくれて、すっごく美味しかった!」
「それは僕も食べたかったですね。ラヴェルも楽しんでいるのなら何よりです」

 後半の台詞には何か引っ掛かるものがあった。ツパイはラヴェルの何に安堵したのだろう?

「ではユスリハ、着替えて顔を洗ったらリビングへ参ります。そして今日は貴女のお供を致しますよ」

 さすがね。あたしは微かに苦笑しながら、それでもツパイという助け舟に、心強さを又一つ得た気がした。

「ありがとう、ツパイ。助かるわ」

 着替えに手を伸ばすツパイに背を向け、あたしは部屋を後にした。



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