◆ラヴェンダー・ジュエルの瞳
 あたしは早々に荷作りを始め、遠い隣家のおばさんに事を伝えた。出発の準備を終えた時には、淡い夕暮れが立ち込めていた。

「ラウル、帰りはちゃんと自分の足で戻ってきなさいヨ?」

 タラはそう言って彼の頬をつねり、飛行船まで背負ってくれた。

 久し振りに踏み入れる、あたし達の旅の相棒。中身は何にも変わっていなかった。真ん中の白いテーブルセットも、窓際の収納を兼ねた長いチェストも、そして壁に埋め込まれた脱出用シューターの寝台カプセルも!

「あ、ちょっと待って……。ラヴェル、あなたの故郷(ふるさと)を見せてね」

 タラの手を制し、あたしはそっと彼に口づけた。カプセルに入れられてしまったら、しばらく毎朝のキスは難しいから。驚き「わお」と小さく声を上げたタラとツパイの目の前で、ラヴェルの頬は差し込んだ夕焼けの色に染められ、赤面したように見えた。ううん、本当に赤くなったのよね? あなたがあたしに触れる時、いつも淡々としていたのは、実のところ照れ隠しだったのでしょ?



 ──行くよ、ラヴェル。



 だってあたしのピースは揃わなかったのだから。

 ラヴェル(あなた)という名の、たった一枚のピースが。

 パズルが完成したら、其処には何が見える? 多分きっと広大なラヴェンダー畑かしら?

 早くその中を一緒に歩きたい。あの花摘みの唄を歌いながら。

 だから絶対取り戻す! あなたを、あなたの心からの笑顔を!!

 目覚めた時……お願いだからもう一度言って。

 「お姫様、どうか『僕』に目覚めのキスを」って。

 沢山捧げた『おはようのキス』より、絶品の口づけをあなたに贈るから。

 一緒に笑お? 笑って暮らそう!

 あたしは階下の操船室へ赴いた。

 見える西の空は夕陽が沈み、優しいラヴェンダー色に染まろうとしていた。



 あたし達を乗せた飛行船が、



    ふわりと白い鳥のように──



       (そら)へと羽ばたいた──!



          〔FIN〕




○ラヴェンダーの花言葉・・・『あなたを待っています』○


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