◆ラヴェンダー・ジュエルの瞳
 王は感心したように目を見開いた。組んだ指をほどいて頬を包み、じっとツパイの鼻先を見詰める。四日に一度たった小一時間でも、恋人でも家臣でもない者が王の許へ足しげく通っているとなれば、城で働く者としては余り気持ちの良いことではないだろう。が、それなりの仕事を与えられていれば──ある程度の融通は効く筈だ。

「了解、それで頼むよ。ただお願いが幾つかある」
「お願い、ですか?」

 王は再び微笑を宿し、スッと背筋を伸ばした。

「まずはその「ラウル様」はナシ。君は王宮で働いても、飽くまでも僕の家臣じゃない。『様』は要らない。それから悪いけどラウルでなくて、「ラヴェル」って呼んでくれる?」
「ラヴェル、ですか?」
「そう」

 ニッコリと笑った王は、まるで子供のように喜びを瞳に乗せた。

「あともう一つは……気を悪くしないでほしいのだけど、僕は君の過去を調べた。で……多分その内僕は動き出すことになる。国民の為と──君の為に。ああ、気にしないで、もちろんそれは自分の為でもあるから。で、その時、君に背中を押してもらいたいんだ。それから……悪いけど、そうなったら僕について来てくれる?」
「は、い……」

 何とか返事をしてみたものの、ツパイには依然理解が足りなかった。自分の過去を知って動き出すとはどういう意味なのか? 王は何を行なう為に、自分の後押しと同行が必要なのか──?


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