◆ラヴェンダー・ジュエルの瞳
「やった! 着いて早々見つけるなんてツイてる!!」



「え?」

 ずっと遠くから駆けてくる小さな人影が、大きな声で叫んでいた。

「タラー! 運命を「切り開き」に来たよー!!」
「シ、アン……??」

 満面の笑顔で手を振るその姿は、以前と同じヘーゼルナッツ色のサラサラな髪を流し、首には……あのショールを巻いていた!

「どうしてっ!?」

 すっかり嫌われたと思っていたタラには、何故彼が追い掛けてきたのか、そもそもどうして此処が分かったのか、全く見当が付かなかった。

「あれから一度イギリスに戻ったんだ。自分の工房の職人がこのショールを見て、一目でヴェルのラヴェンダー染めだと断言してね。それからロンドン在住のヴェル出身者を見つけ出して……「タラ」っていう美人を知らないか? って訊いたら、「タラ」って名乗る「タランティーナ」という絶世の美女なら知ってるって教えてくれた!」
「……」

 タラはその説明に思わず絶句したが、ヴェル国民に尋ねれば、それなりに自分は有名人だろう、とも納得がいく。

「自分の欲しい物は、必ず手に入れるって言っただろ? だから僕は……しつこいよ」

 シアン色の瞳が、自信を(たた)えてウィンクした。タラはプッと吹き出し、

「そうみたいネ」

 やっと二人は顔を見合わせて笑みを交わした。

「あ、それとこのショールの工房にも案内してよ。君にも惚れたけど、僕はこっちにも惚れ込んだんだ。悪いけど国籍をヴェルに移すから、今日から君の家に世話になるよ」
「え? ──ええ!?」

 台詞の意味が理解出来ない内に、シアンはタラを抱き寄せた。再びあの熱い血が巡る、温かな口づけが捧げられる。



 ──白に戻った心のノートには、これからシアン色のインクで書き綴られるのだろう。



 こうしてタラの第二の人生が、ついに始まりを告げた──。





○そして『ラヴェンダー・ジュエルの瞳』は、続編『アッシュ or ルク』へと続きます○


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