◆ラヴェンダー・ジュエルの瞳
 そんなことを考えながら呆然としているあたしを残して、気付けばラヴェルはあばら家の扉を叩いていた。トントントンと三回。ドンドンドンと更に三回。応答なしは留守なのか空き家なのか。「誰も居ないんじゃない?」と声を掛けようとした矢先、立てつけの悪い扉をギシギシと言わせながら、奴は押し開いてしまった。これって不法侵入にならないかしら?

「こんにちは。こんにちは、おばさん。貴女の息子さんの友人です」

 そんな台詞を言い放ち、暗い屋内へ入っていくラヴェルを追いかけたけれど、おばさんって、息子さんの友人って本当なの?

「おばさん、ラヴェルと申します。こんにちは」

 まるで廃墟のような何もない暗がりの真ん中に、崩れそうな丸椅子が一脚、其処に薄汚れたブロンズ像のような老婆が……違う……きっとまだ中年といった年齢だ。一人の瘦せぎすな女性が背中を丸めて腰掛けていて、ラヴェルはその前に(ひざまず)き、骨細った彼女の手を取り両手で包み込んだ。

「……む、すこ……の……?」

 全く動く気配のなかったその人影は、ラヴェルの言葉に一呼吸遅れながらも反応を示した。


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