◆ラヴェンダー・ジュエルの瞳
「自分には選べる資格などないですから」

 ラヴェルはそう言い瞳を伏せる。まったくもう少し分かる会話をしてほしいものだわ。

「そうかね……今からでもアイフェンマイアを継承する道はあるとは思うのだが」
「デリテリートが似合いと思いますので……これ以上は」
「うむ……」

 ──アイフェン……マイア?

 話の繋がりも意味も殆ど理解が出来なかったけれど、その言葉には何故だか引っ掛かる物があった。何だろう……何処かで聞いたことがあるような……ないような??

「……あのっ──」

 ロガールさんが渋い声を出して沈黙してから、二人に続きの言葉はなかった。そこであたしは質問しようと口を開きかけた矢先、ラヴェルがおもむろに椅子から立ち上がってしまった。

「ロガール、飛行船のシャワールームは狭いので、出る前に浴室を貸してもらえます?」
「もちろんさ。ゆっくり入ってくるといい」

 ああもう、いつも話の腰を折ってくれるんだから~!

 こうして再び『訊くに訊けない日常』が始まるように、ラヴェルは湯浴みに、ロガールさんはアイガーと共に家畜小屋の清掃に、そしてあたしはキッチンの片付けに、全員が自分の場所へと流されてしまった──。



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