童貞が恋に落ちる瞬間

お菓しの子

 僕が高校生の時だった。
 女っ気のないオタ友二人と、教室でたわいのない話をしていた。

 そんな時だった……。
 後ろの方の席で固まっていた女子グループがにぎわっていた。
 女の子たちはいつも華があっていい。
 キャッキャッいって、見ているこちらもほほえましい。

 だが、僕が見ていたのはひとりだけ。
 クラスの中でも一番目が大きくて、可愛らしい女の子。桃山さん。
 僕は彼女をずっと可愛い子だなって思ってた。

 時には映画にでも誘おうかと思ったが、他の女子たちが桃山さんを絶対に一人にさせないから、話しかけるすきもない。
 それに僕自身も勇気がなかった……。

 桃山さんが女友達と談笑していると、彼女が「ねぇ、これ食べる?」とお菓子を取り出した。
 みんなが「うん、食べるたべる」とか「ありがとう」とか言って、美味しそうに食べているのを、僕は遠くから見つめていた。

(いいなぁ、僕も桃山さんのだったら食べたいわぁ)
 そんなことを頭で巡らせていた。
 無理無理、あの桃山さんが僕になんかくれるわけないよ。
 そう思って、オタ友とくだらない話に戻す。

 すると後ろの席から桃山さんの声が聞こえてきた。
「あ、少し残っちゃった……どうしよう」
 なん……だって!?

 僕は心底ドキドキしていた。
 クラスには他のリア充イケメン男子たちがいっぱい座っている。
 それなのに、僕たちオタ三銃士に彼女は持ってくるのか!?

 桃山さんが女友達にいう。
「どうする?」
「男子にでもやれば?」
「ええ……私が渡すの?」
「だって桃山ちゃんが言い出しっぺじゃん」
「そうだけど……」

 なにやらコソコソと女の子たちだけで話し合っている。
 僕は後ろには目をやらず、聞き耳を立てていた。
 オタ友も同様だ。

 その時だった。
 桃山さんが「じゃあ…」と口を開く。
 足音が前の席と近づいた。

(だ、誰にあげるんだ!? やはりリア充クソ男子どもか?)

 僕がそうハラハラ、ドキドキしていると……。

 桃山さんの足音が早くなる。

 ダダッと僕たちのところに走ってくると、なにかをバシン! バシン! バシン!と机の上に叩きつけた。
 僕は彼女が怒っているのかと思った。
 ビックリして、上を見上げると、桃山さんが大きな瞳でこちらを睨みつけていた。

「よかったら食べて……ください!!!」
 そう吐き捨てると彼女は後ろの席へと走りさっていった。

(なんだったんだ!? 彼女はブチギレていたぞ?)

 そして机の上を見れば、渡されたお菓子は『ハイチュウ』

 こ、これは……女子が男子に『ハイ・チュウ!』だと?
 そんな恥ずかしいことを普通するか?
 僕は一体どういう意味なのか全くわからなかった。

 なぜ彼女はイケメンリア充ではなく、僕たちみたいな、いや、僕にだけハイ・チュウ!を渡したのか?

 あの子、僕に惚れているのかもしれない!

 ……と思った僕は、ハイチュウをその場で桃山さんのお口の中だと考えて、美味しく味わった。イチゴ味。
 残った銀紙は、家に帰って財布の中に保存しておいた。

 三年後、桃山さんは僕のカノジョになった。

                            了
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