偽装結婚の行く末
「100万」

「は?」

「ただでとは言わない。その金額で半年間だけ俺の婚約者として振舞って欲しい」


今度はいたって真面目な顔で提案をしてきた。
嘘ではないっぽい。お腹すいてるし、話だけでも聞くかぁ。


「なんでそんなに必死なワケ?」

「政略結婚させられそうになって困ってんだよ。
結婚なんてする気ねえし、第一相手がタイプじゃない」

「へぇ、今どきそんなことあるんだ」


座り直して話を聞く体勢になったら、引き戸が開けられて店員さんがジョッキに注がれた生中を持ってきた。
あー、おいしそう。すると昴は「彼女に」と言って私の方にそれを寄越してきた。

小さい時から昴のこと知ってるから、こういう気遣いされるのなんかヤダ。


「はぁ、顔がいいって罪だな」

「ウッザ、調子乗りすぎ」

「は?お前こそうぜぇ、そのビール返せよ」

「イヤだ、これはあたしのビール!」


ビールジョッキに伸ばされた手をひょいっとよけて、冷たいビールを喉奥に一気に流し込む。
「カ〜〜ッ」とおっさんみたいな声を出したら昴に冷めた目をされたけど別になんとも思わない。
あたし、会社じゃ猫かぶってるけど実際こんな感じだし。
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