偽装結婚の行く末
木に登って枝の先に引っかかった帽子を取る。
木登りなんて久々だ。今日スキニー履いててよかった、なんて思いながら飛び降りて地面に着地する。


「はは、野生児」

「笑わないでよ」


綺麗に着地を決めたら昴が吹き出した。
なにそれ、あたしは至って真面目なんですけど。

なんて口をとがらせていたら、女性がひとり駆け寄ってきた。


「ありがとうございます。それ、私のなんです」


物腰の柔らかい品のいい中年の女性が笑顔で近づいてきた。
この帽子の持ち主らしい、よかったすぐに見つかって。


「わざわざ登ってくださるなんて、なんとお礼を言ったらいいか」

「大丈夫ですよ、お構いなく」

「これ、主人からの贈り物だったから失くさなくてよかった」

「それはよかったですね」


大事なものなら、なおさら木に登ってまで取った甲斐があった。


「あの、お礼と言ってはなんですがこれ……」


すると彼女は何かパンフレットのような物を取り出して渡してきた。
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